『散歩の達人』の歩き方【新保信長】新連載「体験的雑誌クロニクル」16冊目
新保信長「体験的雑誌クロニクル」16冊目
そんななかでも個人的にグッときたのは、「ベリーベストオブ電柱!」(2002年8月号)だ。当時すでにマンホールの蓋や「オジギビト」(工事現場で頭を下げる人のイラスト。とり・みき氏命名)を鑑賞する路上観察的視点はあったし、今や「電線愛好家」を名乗る人もいる。が、電柱に対して「ベリーベストオブ」という言葉が冠せられたのには意表を突かれた。これが「街の電柱大研究!」とかなら、さほどインパクトはない。「ベリーベストオブ」というところにこだわりというか“電柱愛”を感じたのだ。
実際に取材・文を担当したライター氏は特に電柱マニアというわけでもなさそうだが、基本形から変わり種までずらりと並んだ電柱は見ごたえあり。「知っていると楽しい電柱マメ知識」も「へえ~」という感じで、電柱の製造工程まで取材しているのは気合を感じる。

ほかにも「80年代東京を歩く」(2005年11月号)、「東京マンガ歩き」(2009年8月号)、「ステキな横丁新世代」(2013年9月号)、「40歳からの東京酒場」(2014年2月号)など、気になる特集の号は買ってきた。毎号ではないにせよ、創刊以来の愛読者と言ってもいいと思うし、編集部や外部スタッフにも何人か知り合いがいた。そのわりに仕事上では縁がなかったのだが、一度だけ声がかかったことがある。
2016年5月号の創刊20周年企画第2弾「食堂100軒」に選者の一人として名を連ね、下北沢の定食屋を紹介したのだ。お店の人に素性がバレるのが嫌だったので撮影には立ち会わず、コメント原稿を書いただけだが、平松洋子さんを筆頭に錚々たる顔ぶれが並ぶなかに交ぜてもらったのはうれしかった(その定食屋も今はもうない)。
現在の『散歩の達人』は、昔のようなマニアックな特集はほぼなくなり、基本的にエリア特集+連載というスタイルだ。自分にまったく縁のないエリアだとなかなか手が伸びないが、下北沢、吉祥寺、新宿、神保町あたりが特集されていると、つい買ってしまう。たまにあるテーマ特集、たとえば「銀座線ブギウギ」(2023年12月号)、「ちょうどいい酒場。」(2024年1月号)、「人生は猫だらけ。」(12月号)なんかも買いがちだ。
ほぼ行ったことのない「千歳烏山・仙川・調布」(2024年4月号)を買ったのは、表紙が仙川近辺に長年住む漫画家・山本直樹のイラストでインタビューも掲載されていたから。「中野・高円寺・阿佐ヶ谷」は何度か特集されているが、何か用がなければ行かない場所だ。それでも2018年7月号には『きのう何食べた?』のよしながふみ、2022年11月号には『ひらやすみ』の真造圭伍が登場していて、これまた買うしかないのだった。